純愛を踏みにじられた俺の物語。元幼馴染は後悔と絶望、間男は破滅。これが因果応報。

第1話

僕の名前はハル。まあ、どこにでもいる、特に変わったところもない男さ。ただ一つ、僕の風景の中に、いつもミユキがいたという点を除けばね。物心ついた頃から、彼女は僕の隣にいた。古い井戸端会議の声や、夕暮れの匂い、初めて口にした外国のビスケットの味と同じくらい、自然で確かな存在だった。笑うときも、泣くときも、最初に「好きだ」と言った言葉も、初めて唇が触れた感触も、全部ミユキとだった。まるで、世界の始まりから、そこには僕たち二人しか存在していなかったかのように。

高校を卒業し、僕とミユキは小さな、四階建てのアパートの三階に引っ越した。窓の外には、特に見るべきものもない、ただのアスファルトと電柱が広がっていた。でも、僕たちはそこで未来を語り合った。質素だけれど、それは確かに僕たちの場所だった。いつか結婚して、庭に白い柴犬を飼って、日曜日の朝には二人でコーヒーを淹れて、静かに音楽を聴く。そんな、カタログに載っているような、ちょっと退屈かもしれないけれど確かな幸福を、僕は信じていた。ミユキも、きっとそうだろうと思っていた。あの、雨が一日中降り続いていた火曜日までは。

ミユキの様子がおかしくなったのは、その少し前からだった。手に持ったスマートフォンの画面を見る時間が長くなり、僕に向けられる視線は、少しずつ遠くへ泳いでいくようになった。問い詰めても、「なんでもないよ、ハル」と、額に張り付いた髪を払う仕草をするだけで、それ以上の言葉は続かなかった。胸のあたりに、形容しがたい、冷たい塊が生まれるのを感じた。それは、きっとこのままではいけない、という種類の予感だった。

そして、その予感は、最悪の形で現実になった。ミユキがシャワーを浴びている間に、テーブルの上に置きっぱなしになっていた彼女のスマートフォンが、短い電子音を立てたのだ。画面に表示されたメッセージ。見慣れない名前。そして、甘ったるい、胃の腑にすとんと落ちてこないような言葉。「昨日は最高だったよ。また会えるのが待ちきれない」と。

その瞬間、僕の体内を流れる血が、凍りついたような気がした。指先が、奇妙なほど正確に、画面をスクロールしていく。そこに映し出されていたのは、ミユキと、見知らぬ男が一緒に写っている写真だった。男の肩に頭を乗せ、僕に向けたことのないような、砂糖菓子のように甘い笑顔を浮かべているミユキ。

頭が真っ白になった。まるで、強い光を浴びて、網膜の像が焼きついてしまったかのような。息の仕方が分からなくなった。写真に写っている男に見覚えがあった。ミユキが職場の先輩だと話していた、タカシさんとかいう名前の男だ。まさか、こんな、僕たちの日常という名の小さな箱庭の中に、別の人間が、こんな形で入り込んでいたなんて。

シャワーから出てきたミユキに、僕は無言でスマートフォンを見せた。画面を見た彼女の顔から、血の気が引いていくのが分かった。そして、堰を切ったように、彼女は泣き崩れた。

「ごめんなさい…」

「ごめんなさい、ハル…」

ただそれだけを、壊れたレコードのように繰り返すミユキに、僕は何を言えばいいのか分からなかった。言葉が、どこか遠い場所へ逃げてしまったかのようだった。裏切り。僕たちの積み上げてきた全てが、音も立てずに崩壊していく。それは、まるで砂でできた城が、波にさらわれる光景に似ていた。

あの男に、ミユキを寝取られた。その事実が、まるで胃の中に重い石を詰め込まれたかのように、僕の体内に沈み込んだ。NTR。文字でしか見たことのなかった、どこかフィクションの世界の出来事だと思っていた単語が、僕自身の、生々しい現実となった。屈辱と怒りが、体中の血を沸騰させる。

別れは、あっけなかった。まるで、何年も連れ添った夫婦が、些細なことで別れるかのように。ミユキは必要最低限の荷物をまとめ、泣きながらアパートを出て行った。引き止める言葉は、最後まで僕の喉からは出てこなかった。出て行った後の部屋は、ひどく広く、ひどく寒かった。ミユキの匂いが染み付いたその空間で、僕は一人、膝を抱えて座り込んだ。外では、雨が、まるで世界の悲しみを全て洗い流そうとするかのように、降り続いていた。

数週間、僕は時間の感覚を失っていた。ただ、胸の中に、消えることのない炭火のようなものが燃えていた。ミユキへの、そしてあの男への憎しみ。特にあの間男に対しては、アストラル体を引きずり出して、熱したフライパンの上で踊らせてやりたいと思った。僕から全てを奪った報いを受けさせてやりたい。地獄の底で、永遠に冷たい雨に打たれ続けるような、そんな「ざまぁ」を見せてやりたい衝動に駆られた。

僕は動き出した。それは、深い井戸の底から、ゆっくりと、しかし確実に這い上がっていくような作業だった。まず、あの男について調べた。名前はタカシ。会社の人間関係の歯車の一つとしては、それなりに油が差されているらしい。結婚していて、小さな子供もいるとか。へえ、人のものを奪っておきながら、自分はきちんと線路の上を走っているのか。それは、僕にとって耐え難い種類の不協和音だった。

タカシの会社の情報、家族構成、行動パターン。徹底的に調べ上げ、彼の日常という名のパターンを把握した。そして、共通の知人を装って、タカシという名の歯車に、ゆっくりと、しかし確実に近づいていった。人当たりの良い、気の利く人間として振る舞い、タカシの信頼という名の薄い氷の上に、ゆっくりと足を踏み入れていく。心の中では常に、お前を地獄という名の迷宮に突き落としてやる、と、静かに、しかし明確な声で唱えながら。

そして、機会は訪れた。それは、古い百科事典の埃っぽいページを開くかのように、静かに、しかし確実なものだった。タカシの会社の不正に関する情報を、僕は偶然(もちろん、それは僕が周到に仕組んだ偶然だったのだが)手に入れたのだ。それは、彼のキャリアという名の脆い砂山を、根こそぎ崩壊させるに十分な情報だった。僕は匿名で、その情報を会社のコンプライアンス部門と、飢えた獣のように獲物を待っているマスコミにリークした。

結果は、僕の想像を、ほんの少しだけ上回った。タカシは会社の信用を失墜させた責任を取らされ、まるで古い新聞紙のように、あっという間にゴミ箱へ捨てられた。それだけでは終わらない。不正の規模が、彼の社会的な存在そのものを侵食していく。まるで、古い建物の壁にできた小さな亀裂が、徐々に大きくなっていくかのように。妻からは離婚を突きつけられ、子供とも会えなくなったと聞いた。住む場所という名の錨も失い、かつての栄光という名の蜃気楼は、跡形もなく消え去った。

タカシが絶望という名の深い沼に沈んでいると知ったとき、僕の唇の端が、ほんのわずかに吊り上がった。それは、喜びというよりは、確認のようなものだった。ざまぁみろ。これが、僕から全てを奪ったことの、あまりにも当然な報いだよ。地獄へようこそ。僕が味わった苦しみの何倍もの苦しみを味わえ。彼の転落を知るたび、僕の心の真ん中にぽっかりと空いた隙間が、ほんの少しだけ、砂粒のように埋まっていくような気がした。しかし、それは決して、満たされるという種類の感覚ではなかった。

そして、ミユキだ。タカシが破滅したことを、ミユキも知ったらしい。それは、遠い国で起こった出来事のように、僕の耳に届いた。共通の友人から聞いた話では、ミユキはひどく後悔しているという。タカシが自分に近づいてきたのは、僕との関係を壊すためだったと気づき、まるで使い古された道具のように利用されていたことを知って絶望していると。そして何より、僕を裏切ったことを、深く、深く悔いていると。それは、古いレコードのノイズのように、耳の奥で響いた。

ある雨の日、ミユキから連絡があった。それは、僕の知らない番号からの、短いメッセージだった。

「会ってほしい」

指定されたカフェは、駅前の、特に特徴もない場所だった。そこにいたのは、かつての輝きを失ったミユキだった。まるで、長い旅の末に、全てのエネルギーを使い果たしてしまったかのように。痩せ細り、目に、かつて僕だけに向けていたはずの光が宿っていなかった。

「ハル…」

彼女の声は、雨に濡れた子猫のようにか細かった。

「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…」

震える声で謝罪を繰り返すミユキに、僕は何も感じなかった。かつてあれほど、世界の中心だと思っていた存在だったはずなのに、不思議なほど、彼女の言葉も、涙も、僕の心の壁をすり抜けていく。

「タカシさんのこと…聞いたわ。あの人は、私を…」

「どうでもいい」

僕はミユキの言葉を、まるで邪魔なノイズを消去するかのように遮った。

「君が誰に寝取られようと、あの男がどうなろうと、もう僕には関係ないことだ。何もかも、手遅れなんだよ」

ミユキは顔を上げ、絶望という名の深い湖のような瞳で僕を見た。その瞳には、かつての無邪気さも、僕に向けられていたはずの愛情も、微塵も残っていなかった。あるのは、あまりにも深い後悔と、どうすることもできない現実への絶望だけだった。それは、古いモノクロ写真を見ているような感覚だった。

「あの頃に戻りたい…あなたと二人で、笑い合ってた頃に…」

彼女の声が、遠いエコーのように響いた。

「無理だ」

僕は、冷たい石のようにきっぱりと言い放った。

「僕たちのあの頃は、君が自分の手で、粉々に砕いてしまったんだ。もう二度と、元に戻ることはない」

ミユキは再び泣き崩れた。その涙を見ても、僕の心は、まるで固く閉ざされた扉のように微動だにしなかった。かつてはミユキの涙を見るだけで、胸が締め付けられるような痛みを感じたのに、今は何も感じない。それは、壊れてしまった機械を見ているような、ただの光景だった。

因果応報。ミユキは、自分が蒔いた種の刈り取りをしているだけだ。僕を裏切り、僕から全てを奪ったことの、あまりにも当然な帰結だ。後悔しても、もう遅い。時は、誰の都合も待ってはくれない。

カフェを出て、雨の中を一人歩いた。心は晴れるどころか、鉛のように重かった。タカシを破滅させ、ミユキに絶望を味わわせた。僕の望みは叶ったはずなのに、満たされるものは何もなかった。それは、喉が渇いているのに、塩水を飲んだときのような感覚だった。

白詰草の花冠を作って、二人で笑い合った日。将来の夢を語り合った夜。全てが、まるで遠い星の光のように、記憶の彼方に霞んでいく。僕たちの物語は、あの雨の日の裏切りで終わったのだ。残ったのは、癒えることのない、深い傷と、穴の空いたような虚無感だけだった。

僕はこれからも、この傷を抱えて生きていくのだろう。ミユキも、そしてタカシも、それぞれの、自分自身が作り出した地獄の中で生きていくのだろう。これが、僕たちが選んだ道、そしてその、あまりにも当然で、そして悲しい結末だった。二度と交わることのない、まるで古い煉瓦でできた檻のような人生が、僕たちを待ち受けていた。外は、ただ静かに、雨が降り続いていた。