ただの善人だと思って浮気した彼女が、俺の親友(学園の帝王)と裏ファンクラブ(総勢一万人)によって社会的に抹殺されていた件について

第7話 番外編:学園の帝王(僕)が、平凡な彼を「神」と崇める理由。そして、その神を裏切った愚か者たちへの鎮魂歌(レクイエム)

僕、皇 帝雅(すめらぎ たいが)の世界は、かつて灰色だった。
皇財閥の嫡男。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。
周囲は僕を「帝王」と呼び、羨望と嫉妬の眼差しを向ける。だが、僕に近づいてくる人間は皆、僕自身ではなく、僕の背後にある「金」や「権力」しか見ていない。

媚びへつらう教師、家柄目当ての女子生徒、利用しようとする大人たち。
反吐が出る。この世は、欲望と欺瞞に満ちたクソ溜めだ。

そう思っていた。
あの日、高校の入学式で、彼――天道善治に出会うまでは。

◇ ◇ ◇

四月の入学式の日、僕は体調を崩していた。
慣れない人混みと、親族からのプレッシャーによるストレス。校舎裏で目眩に襲われ、僕はその場にうずくまった。

視界が歪む。意識が遠のく。
誰か、助けてくれ。
そう願っても、通りかかる生徒たちは僕を見て見ぬふりをした。「関わりたくない」「怖い」「誰かがやるだろう」。そんな冷たい心音が聞こえてくるようだった。

絶望の中で、不意に温かい手が僕の肩に触れた。

「大丈夫? 顔色が悪いよ」

顔を上げると、そこには平凡な少年がいた。
彼は僕の顔を見ても、驚きも媚びもしなかった。ただ純粋に、目の前の弱っている人間を心配する瞳。

「立てる? 無理しないで。僕の背中に乗って」

彼は僕を背負い、保健室まで運んでくれた。重いはずなのに、文句一つ言わず、額に汗を浮かべて。
そして、貧血だと分かった僕に、自分が持っていたペットボトルの水と、手作りのおにぎりを差し出したのだ。

「これ、よかったら食べて。塩分と糖分、大事だからさ」
「……君は、僕が誰か知っているのか?」
「え? 新入生でしょ? 僕と同じ」

彼は屈託なく笑った。
皇の名の威光も、帝王という虚飾も、彼には関係なかった。
彼はただ、困っている「名もなき僕」を救ってくれたのだ。

その瞬間、僕の世界に色が着いた。
灰色だった景色が、彼という太陽によって鮮やかに照らされた。
ああ、この世にはまだ、「本物」がいたんだ。
打算も裏表もなく、ただ他人のために手を差し伸べる聖人が。

あの日、僕は誓った。
天道善治。この「神」の笑顔を守るためなら、僕は喜んで悪魔になろうと。

◇ ◇ ◇

だからこそ、許せなかった。
善治の隣で、彼の優しさを貪り食う寄生虫――愛染璃々夢という女が。

最初は静観していた。善治が彼女を選んだのなら、それを尊重しようと。
だが、彼女は善治の献身を「退屈」と断じ、裏で他の男と密通していた。

屋上からその現場を目撃した時、僕の中で何かが切れる音がした。
怒りではない。もっと冷たく、鋭利な殺意だ。

「……僕の神を汚す者は、生かしておけない」

僕は即座に行動を開始した。
生徒会室を指令本部に変え、僕が持つコネクションと、善治がこれまでに救ってきた人々による「善治ファンクラブネットワーク」をフル稼働させた。

電話一本で、間男の推薦入学を取り消させた。
メール一通で、浮気女のSNSを炎上させ、学校内での立場を崩壊させた。
警察署長(善治の信者)に証拠を送りつけ、商店街組合(善治親衛隊)に情報をリークした。

彼らが社会的に死んでいく様を見るのは、実に愉快だった。
まるでドミノ倒しだ。善治を傷つけた報いが、雪だるま式に膨れ上がって彼らを圧殺していく。

「皇くん、やりすぎでは?」

生徒会役員が恐る恐る聞いてきたが、僕は冷笑して答えた。

「やりすぎ? まさか。これは『掃除』だ。神聖な神殿に湧いた害虫を駆除しているに過ぎない」

◇ ◇ ◇

そして、断罪の日。
校舎裏で泣き叫ぶ間男と、恐怖に震える女を見下ろしながら、僕は胸のすく思いだった。

だが、善治だけは違った。
彼は、自分を裏切った女を庇い、僕を止めようとした。

「帝雅、もういいよ。俺が我慢すれば済む話なんだから」

その言葉を聞いた時、僕は改めて痛感した。
ああ、やはり彼は「神」だ。
自分を傷つけた相手さえも許し、慈悲を与えようとする。そのあまりにも眩しい善性。

だからこそ、僕が必要なのだ。
光が強ければ強いほど、影は濃くなる。
彼の優しさが利用されないように、僕が影となり、外敵を排除し続けなければならない。

善治が璃々夢に別れを告げた時、僕は心の中でガッツポーズをした。
これでいい。
あの女は善治に相応しくない。善治の隣に必要なのは、彼を崇拝し、守り抜く覚悟のある者だけだ。

◇ ◇ ◇

騒動が去り、平和が戻った放課後。
善治はいつものように、困っている人を助けるために走り回っていた。

「あ、天道くーん! 手伝ってー!」
「はいはい、今行きます!」

その背中を見つめながら、僕は小さく微笑んだ。

君はそのまま、愚直なまでに善人であり続けてくれ。
君が落としたハンカチは僕が拾う。
君に飛んでくる火の粉は僕が払う。
君が進む道にある石ころは、僕がすべて取り除いておく。

「……行くぞ、善治」

僕は彼に追いつき、その隣に並んだ。
友人として、信者として、そして最強の守護者として。

「今日の夕飯はハンバーグなんだろ? 遅れると冷めるぞ」
「おう! 帝雅もいっぱい食えよな!」

無邪気に笑うその顔が見られるなら、僕は世界中を敵に回したって構わない。
これが、学園の帝王である僕が選んだ、唯一にして絶対の生きる意味なのだから。