「あなたじゃもう満足できない」と捨てられた僕が、すべてを失った君に「もう何でもない人だ」と告げるまで

第7話 (蓮視点)

僕の世界は、掌の中にあるガラス細工のように、繊細で、そして思い通りに操れるものだった。生徒会長という肩書は、それをより一層盤石なものにした。誰にでも笑顔を向け、完璧な優等生を演じれば、誰もが僕を信じ、僕の言葉に耳を傾けた。彼らの羨望の眼差しは、僕にとって心地よい麻薬だった。

特に、承認欲求の強い女子など、手のひらで転がすのは造作もないことだった。少し褒めてやれば、すぐに僕に夢中になる。彼女たちの無邪気な瞳が僕を崇拝するたびに、僕は自分の支配力を再確認した。美咲も、その一人に過ぎなかった。彼女は明るく、華やかで、周囲から注目されることに飢えていた。悠真という幼馴染の隣で、どこか物足りなさを感じているのは一目瞭然だった。僕は、そんな彼女の心の隙間を簡単に見つけ出し、そこに入り込んだ。

悠真? ああ、あの目立たない少年か。美咲の隣で影のように寄り添っていた彼の存在は、僕にとって何ら脅威ではなかった。むしろ、彼のような献身的な存在がいた方が、美咲が僕を選ぶ時のドラマ性が増す。僕が美咲に「彼では君の輝きを引き出せない」と囁けば、彼女は簡単に僕の言葉に乗り、そしてあっさりと、彼を切り捨てた。その時の美咲の、僕を見つめる無垢な瞳には、満足と、そしてどこか解放されたような光が宿っていた。僕は、その光を一時的に貸し与えたに過ぎない。

美咲は、僕にとって一時的な気まぐれに過ぎなかった。彼女のようなタイプは、すぐに飽きる。僕に執着し始めた頃には、すでに次のターゲットを見つけていた。まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように、僕は何の躊躇もなく美咲を手放した。彼女の困惑した顔、傷ついた表情を見ても、僕の心は微動だにしなかった。彼女が騒ぎ立てても、誰が僕を責めるだろうか? 僕には、完璧な優等生の仮面がある。僕の言葉一つで、誰もが僕を信じる。

けれど、その完璧な仮面に、いつしか亀裂が入り始めていたことに、僕は気づかなかった。

最初の異変は、小さなものだった。僕が手を出した複数の女子たちが、互いに連絡を取り始めたという噂を耳にした。最初は、嫉妬に狂った女たちの戯言だと一蹴した。僕を巡って争っているのだと、むしろ優越感すら感じた。しかし、その囁きは、次第に増幅していった。僕が声をかけると、以前ならすぐに僕に駆け寄ってきた女子たちが、少しだけ顔を曇らせたり、目を逸らしたりすることが増えた。

「蓮くんって、結構、裏表あるらしいよ」

「なんか、怖いよね。平気で人を傷つけるっていうか」

そんな言葉が、僕の耳にも届くようになった。僕は鼻で笑った。僕に嫉妬しているのだと。僕を理解できない凡庸な人間たちの戯言だと。僕は、自分の魅力と、積み上げてきた信頼が、どんな噂をも跳ね返す絶対的なものだと信じていた。

しかし、状況は確実に悪化していった。いつものように生徒会室で作業をしていると、後輩たちが僕を見る視線が、以前のような尊敬の念ではなく、どこか怯えや、不信感に変わっているのを感じた。僕の指示に対する反応も鈍くなり、彼らの口数は減った。

ある日、学校の掲示板に、匿名の手紙が貼り出された。それは、僕の複数の女子との関係について、具体的に、そして生々しく綴られたものだった。手紙の内容は、僕の過去の行動を正確に描写しており、明らかに僕の被害者たちの一人が書いたものだと分かった。

掲示板の前には、あっという間に人だかりができた。彼らは、手紙を読み終えると、僕の方に視線を向けた。その瞳は、もはや羨望でも、尊敬でもなかった。そこにあったのは、軽蔑と、裏切りへの怒り、そして、嘲りだった。

「ひどい……あんな人だったんだ」

「生徒会長なのに……信じられない」

囁き声が、まるで嵐のように僕を包み込む。僕は、顔色一つ変えずにその場を立ち去ろうとしたが、足が、鉛のように重かった。彼らの視線が、僕の完璧な仮面を剥ぎ取り、僕を裸にしていくようだった。

その日から、僕の学園生活は一変した。僕が教室に入ると、周囲の会話が止まり、沈黙が訪れる。誰も僕に話しかけてこない。友人も、後輩も、以前の僕の周りに群がっていたすべての人間が、僕から距離を置いた。廊下を歩けば、僕を見る生徒たちの冷たい視線が突き刺さる。彼らは、かつて僕を崇拝していたその目で、今や僕を「裏切り者」「偽善者」と見ているのだ。

僕は、焦燥感に駆られた。いつものように、完璧な笑顔を浮かべて挨拶を試みたが、誰も僕に返事をしない。かつて僕を無条件に信じていた教師たちも、僕を見る目がどこか警戒しているようだった。僕は、生徒会長の座を解任された。名目上は「学業に専念するため」だったが、それが真実でないことは、誰もが理解していた。

僕の世界は、音を立てて崩れていった。掌の中にあったはずのガラス細工は、粉々に砕け散り、僕の指の間から零れ落ちていく。僕は、必死にそれを掴もうとするが、もう何も掴めない。僕を囲んでいた光は消え去り、そこには、僕自身の行動が招いた、深い闇だけが残された。

僕は、なぜこうなったのか、理解できなかった。なぜ、誰もが僕を理解しようとしないのか? 僕は、ただ、自分の本能に従って行動しただけなのに。彼らが勝手に僕を理想化しただけではないか。僕は、彼らを支配していたはずなのに、なぜ、今、僕が彼らに見捨てられているのか。

僕は、自室のベッドに横たわり、天井の染みを見つめた。かつては、僕の魅力を賞賛し、僕の言うことを何でも信じた彼らが、今や僕を罵り、嘲笑している。僕は、もう誰を信じればいいのか分からなかった。僕の周りには、もう誰もいない。僕に残されたのは、孤独と、自分の行いに対する、拭いきれない、底知れぬ虚無感だけだった。僕の輝かしい人生は、僕自身の傲慢さによって、あっけなく終わりを告げたのだ。