三度裏切られた僕の透明な復讐。僕はただ、君たちに”無関心”なだけだ。

第4話 新たな日常

高校二年生の夏休みが始まった。神崎悠斗にとって、それは普段と何も変わらない日々だった。朝、決まった時間に起き、朝食を摂り、図書館へ向かう。図書館が閉まる時間まで勉強し、帰宅して夕食を摂り、眠りにつく。彼の生活には、夏休み特有の浮かれた雰囲気も、友人と過ごす喧騒もない。彼は、その単調な日々を、むしろ心地よいと感じていた。誰にも邪魔されない、自分だけの時間。それが、彼にとっての平穏だった。

ある日の午後、悠斗は図書館で参考書を読んでいた。窓の外は、蝉の声が降り注ぎ、真夏の太陽がぎらぎらと輝いている。そんな中、彼のすぐ近くの席で、ひそひそと話す声が聞こえてきた。

「ねえ、知ってる? 吉川美咲、最近、学校に来てないんだって」

悠斗は、その名前に反応したが、意識をそらすことはなかった。美咲。小学校時代の元恋人。彼にとって、それはもはや遠い記憶の中の人物だった。

「え、そうなの? 夏休みに入ってから?」

「うん。なんか、精神的に参っちゃってるとか、いないとか…」

女子生徒たちの声が、さらに小さくなる。

「佐々木君と別れてから、ずっと荒れてたみたいだよ。まさか、あんなにひどいことされるなんて思ってなかったんだろうね」

「自業自得じゃない? 神崎君にあんなことしといて」

悠斗は、その会話を、ただの雑音として認識していた。美咲が学校に来ない。精神的に参っている。佐々木に捨てられた。彼の心には、何の感情も湧き起こらなかった。復讐心も、ざまあみろという感情も、彼の中には存在しない。それは、彼が美咲に対して、もはや何の感情も抱いていないことの証だった。美咲がどうなろうと、彼には関係のないことだった。

図書館を後にし、悠斗はいつものようにバス停に向かった。バスを待つ間、彼の視線は無意識に周囲を漂っていた。すると、彼の目の端に、見慣れた顔が映った。田中里奈。中学時代の元恋人。彼女は、バス停のベンチに座り、スマートフォンを操作していた。その顔は、以前の凛とした表情とはかけ離れ、どこか陰鬱な雰囲気を纏っていた。

里奈は、悠斗の存在に気づくと、ハッと顔を上げた。彼女の目は、悠斗の顔を捉えると、一瞬だけ希望に満ちた光を宿したように見えた。

「神崎君…」

里奈が、か細い声で悠斗を呼んだ。悠斗は、彼女の呼びかけに、何も反応しなかった。彼は、里奈の隣を、まるで透明な壁があるかのように通り過ぎ、そのままバス停の列に並んだ。

里奈は、ベンチから立ち上がり、悠斗に近づこうとした。

「あの、神崎君…!」

彼女の声には、焦りと、そして縋るような響きがあった。悠斗は、彼女の声に耳を傾けることもなく、スマートフォンを取り出し、イヤホンを耳に装着した。彼の行動は、明確な拒絶の意思表示だった。里奈は、その場に立ち尽くし、悠斗の背中を呆然と見つめていた。彼女の顔には、絶望の表情が浮かんでいた。

悠斗は、イヤホンから流れる音楽に意識を集中させ、周囲の音を完全に遮断した。里奈の苦しむ姿も、彼女の呼びかけも、彼には届かない。彼は、彼女たちの存在を、もはや自分の人生の一部として認識していなかった。彼にとって、彼女たちは過去の遺物であり、何の価値もないものだった。

数日後、悠斗は友人と会うために繁華街へ向かっていた。彼には、唯一、中学時代からの友人がいた。その友人は、悠斗が人間不信になる前からの付き合いで、彼の変化を理解し、そっと見守ってくれていた。悠斗が心を許せる数少ない存在だった。

待ち合わせ場所に着くと、友人はすでに到着していた。二人は、適当なカフェに入り、近況を語り合った。悠斗は、自分の勉強の進捗状況を淡々と話し、友人もまた、自分の部活動のことなどを話した。

すると、友人がふと、視線をカフェの入り口に向けた。

「おい、あれって…西村葵じゃないか?」

友人の言葉に、悠斗はわずかに視線を動かした。カフェの入り口に、西村葵が立っていた。彼女は、以前よりも痩せ細り、顔色も悪かった。そして、彼女の隣には、誰もいなかった。かつての華やかなオーラは、完全に失われていた。

葵は、カフェのメニューを見つめながら、どこか不安げな表情をしていた。彼女は、一人でカフェに入ることに躊躇しているようだった。その姿は、以前の自信に満ちた葵とはかけ離れていた。

友人が、葵の姿を心配そうに見つめた。

「なんか、元気なさそうだな。高橋と別れてから、ずっと落ち込んでるって噂だけど」

悠斗は、その言葉にも何の反応も示さなかった。彼にとって、葵の現状は、もはや関係のないことだった。彼女がどうなろうと、彼には何の関心もない。

その時、葵が悠斗たちのテーブルの方に視線を向けた。彼女の目が悠斗を捉えた瞬間、彼女の顔に、一瞬だけ驚きの色が浮かんだ。そして、彼女は、悠斗に近づこうと、ゆっくりと足を踏み出した。

しかし、その瞬間、悠斗は友人に言った。

「なあ、そろそろ店変えないか? なんか、落ち着かないな」

悠斗は、立ち上がり、出口へと向かい始めた。友人は、少し驚いた表情をしたが、すぐに悠斗の後を追った。葵は、悠斗の行動に、再びその場に立ち尽くした。彼女は、悠斗の背中を、悲痛な表情で見つめていた。