サレ夫の俺が仕掛けた、甘くも残酷な復讐劇

第3話 崩壊と真実

斎藤から告げられた言葉は、俺の想像をはるかに超えるものだった。彼は、美咲との関係を包み隠さず話した。二人が出会ったきっかけ、美咲が俺との関係に不満を抱いていたこと、そして、二人が急速に親密になっていった経緯。斎藤は、まるで俺の反応を楽しむかのように、淡々と、しかし詳細に語った。

「美咲さんは、あなたに構ってもらえない寂しさを感じていたようでした。仕事が忙しいのは分かりますが、女性はもっと繊細なものですよ」

斎藤の言葉は、まるで鋭利な刃物のように俺の心を切り裂いた。俺が美咲を疎かにしていたことは事実だ。だが、それは仕事のためだった。彼女のために、もっと良い生活を、もっと豊かな未来を築こうとしていたからだ。なのに、彼女はそれを理解せず、別の男の腕に…

「彼女は、あなたが気づいてくれないことに、ずっと傷ついていたんです。そして、私は、そんな彼女の気持ちに寄り添ってあげたかった。ただ、それだけです」

斎藤の口から出る美咲の言葉は、俺の知る美咲とはまるで別人だった。俺に不満を抱き、寂しさを感じていた美咲。俺は、そんな彼女の心の叫びに、なぜ気づいてやれなかったのだろうか。後悔の念が、とめどなく溢れてきた。

「…美咲は、今どこに?」

震える声で尋ねると、斎藤は少し困ったような顔をした。

「それが…彼女は、しばらく実家に帰ると言っています。少し、一人になりたいと」

美咲が実家に帰った?そんなことは、俺には一言も伝えられていない。斎藤の言葉の端々から、美咲が俺と距離を置こうとしていることが痛いほど伝わってきた。

電話を切った後、俺はしばらく呆然としていた。全てが、一瞬にして崩れ去ったような感覚だった。俺の信じていた結婚生活、美咲への信頼、そして、俺自身の存在意義。全てが、音を立てて崩壊していく。

その夜、美咲に電話をかけた。何度も何度も、しかし、彼女は出なかった。メールを送っても、既読にもならない。完全に、俺との連絡を絶とうとしている。

数日後、実家に帰った美咲から、簡潔なメッセージが届いた。

「少し、時間をください。自分の気持ちを整理したいから」

そのメッセージに、離婚という二文字が透けて見えた。俺は絶望した。これまで築き上げてきたものが、たった一人の男の出現で、もろくも崩れてしまった。

それから数週間、俺は廃人のように過ごした。仕事も手につかず、食欲もなく、ただ時間だけが過ぎていった。美咲からの連絡は一切なく、斎藤もまた、沈黙を保っていた。

そんなある日、俺の会社の同僚が、偶然斎藤と美咲が一緒にいるところを目撃したという情報を耳にした。二人は、親密な様子でカフェから出てきたらしい。美咲は、俺に時間をくれと言ったはずだ。なのに、裏では斎藤と会っている。

その事実が、俺の中に眠っていた最後の理性をも破壊した。裏切られた。完全に、愚弄されたのだ。悲しみは怒りへと変わり、俺の心には、復讐の炎が燃え上がった。

俺は、美咲と斎藤への復讐を誓った。彼らが俺に与えた苦しみ、絶望を、同じように味わせてやる。だが、どうすればいい。感情に任せて行動すれば、全てが破滅するだけだ。東野圭吾の小説のように、巧妙に、そして確実に、奴らを追い詰める必要がある。

まず、斎藤について調べ始めた。彼の名前、勤務先、そして家族構成。あらゆる情報をかき集めた。斎藤は、俺と同じ業界の、とあるライバル企業の社員であることが判明した。そして、彼には婚約者がいるという情報も掴んだ。

その事実に、俺は冷酷な笑みを浮かべた。斎藤は、美咲との不倫関係を隠しながら、別の女性と結婚しようとしていたのだ。まさに、因果応報。この情報を、どう利用するか。

次に、美咲についてだ。彼女が俺に抱いていた不満、寂しさ。それは、確かに俺にも非があった。だが、だからといって、別の男に走る理由にはならない。俺は、美咲が本当に欲しかったものは何だったのか、斎藤が彼女に与えたものは何だったのか、冷静に分析し始めた。

そして、一つの結論にたどり着いた。美咲は、俺に「かまってもらいたかった」のだ。高級ブランドのバッグも、旅行も、全ては彼女が俺に求めていた「時間」と「愛情」の代償に過ぎなかった。斎藤は、その隙間を巧みに埋めていたのだ。

俺は、復讐計画を練り始めた。ターゲットは二人。だが、直接的な攻撃では意味がない。彼らの最も大切なものを奪い、心の底から絶望させてやる。

まずは、斎藤だ。彼のキャリア、そして婚約者。これらをターゲットにする。彼の婚約者に、美咲との関係を暴露する。そして、彼の会社にも、その事実をリークする。社会的な信用を失墜させ、彼の未来を奪う。

そして、美咲。彼女の本当に欲しかったもの。それは、俺との「完璧な日常」だったはずだ。だが、彼女はそれを自らの手で壊した。俺は、美咲が最も大切にしているもの、あるいは、最も恐れているものを狙うことにした。

その頃、俺の頭の中には、すでに具体的な復讐のシナリオが完成していた。それは、精緻に組み立てられたパズルのように、決して狂うことのない計画だった。