サレ夫の俺が仕掛けた、甘くも残酷な復讐劇

第9話 (間男視点)斎藤の告白:計算された優しさ

俺の名前は斎藤。誰もが羨むような夫婦の間に、俺はまるで楔のように入り込んだ。俺の行動は、決して偶然ではなかった。すべては、計算されたものだった。

美咲と出会ったのは、とあるカフェでのこと。彼女は一人で本を読んでいて、どこか寂しげな雰囲気を纏っていた。その時、直感したんだ。この女は、満たされていない、と。健太という夫がいることは知っていた。いや、むしろ、健太という男がいるからこそ、彼女は俺にとって価値のある存在だった。完璧に見える関係に、俺がひびを入れる。その刺激に、俺は抗えなかった。

ペンを拾ってやったのは、ほんのささやかなきっかけ作りだ。彼女が読んでいた本の話題から、自然と会話を始めた。美咲は、最初は警戒していたけれど、俺の「優しさ」に、すぐに心を開いた。俺は、彼女の話に熱心に耳を傾けた。健太がどれほど仕事が忙しく、彼女を顧みないか。そんな彼女の不満を、俺はすべて受け止めた。彼女の寂しさに共感し、理解を示した。それは、彼女が健太に求めていたけれど、与えられなかったものだったはずだ。

「美咲さんといると、本当に心が落ち着きます」

そう言った時、彼女の目が潤んでいたのを覚えている。簡単な言葉で、人はこんなにも簡単に心を許すものなのか。俺は、内心で冷笑していた。

彼女がカフェで倒れた時も、俺のシナリオ通りだった。彼女を病院に運び、健太に連絡を入れた。その時、俺は健太の声に微かな動揺を感じ取った。彼の動揺は、俺にとって心地よかった。完璧な男が、自分の妻のことで動揺している。それは、俺が彼の牙城を崩しつつある証拠だった。

健太に美咲との関係を「共通の趣味で知り合った友人」と説明した時、美咲は明らかに安堵の表情を浮かべた。彼女は、健太に真実を話す勇気がない。その弱さにつけ込むのは、簡単だった。

美咲は、まるで飢えた子どものように、俺の「優しさ」を求めた。彼女の携帯電話には、毎日のように俺からのメッセージが届いた。健太に隠れて、彼女は俺に返信を繰り返した。そのたびに、俺の心は満たされていった。彼女の「完璧な日常」を、俺がゆっくりと侵食していく感覚。それは、何よりも刺激的だった。

もちろん、俺には婚約者がいた。佐々木恵美という、真面目で誠実な女性だ。彼女との結婚は、俺の人生設計の一部だった。美咲との関係は、あくまで一時的なもの。そう割り切っていた。彼女は、俺にとって都合の良い存在だった。健太への復抗心を満たし、俺の虚栄心をくすぐるための。

ある日、俺はすべてを終わらせることにした。健太に電話をかけ、美咲との関係を打ち明けた。美咲が健太に「寂しさを感じていた」こと。健太が彼女を顧みなかったこと。すべてを、美咲の言葉として、健太に伝えた。

美咲が俺を恨むだろうことは、わかっていた。だが、もう必要なかった。健太という男を陥れるには、美咲という道具はもう十分だったからだ。彼女が健太と別れ、実家に帰ったと聞いた時も、俺は何も感じなかった。所詮、俺の計画の一部に過ぎない。

しかし、健太は、俺の想像以上に執念深かった。彼は、俺の婚約者である恵美に接触し、俺と美咲の関係を暴露した。恵美から婚約破棄を告げられた時、さすがに動揺した。俺の人生設計が、音を立てて崩れ始めたのだから。会社での立場も危うくなった。俺は、この街にはいられない。

結局、俺は全てを失った。キャリアも、結婚も、そして、俺が手に入れたと思っていた刺激も。美咲の言う「因果応報」というやつだろうか。だが、俺は、美咲のような後悔はしていない。美咲は、自分の愚かさのせいで全てを失った。だが、俺は、ただ自分の欲望に従っただけだ。

俺は、全てを捨ててこの街を去った。俺の心には、何も残っていない。美咲の絶望も、健太の復讐も、俺には関係ない。ただ、次の獲物を探すだけだ。そう、俺は決して後悔しない。後悔なんて、意味がないからだ。