サレ夫の俺が仕掛けた、甘くも残酷な復讐劇

第5話 残された傷痕

美咲の旅館は、俺の仕掛けた悪評によって、壊滅的な打撃を受けた。予約は激減し、従業員も次々と辞めていった。美咲は憔悴しきった表情で、それでも旅館を守ろうと必死に奔走していた。しかし、一度失われた信頼は、そう簡単に取り戻せるものではない。

ある日、美咲から連絡がきた。俺に会って話したい、と。指定されたのは、以前二人でよく行ったカフェだった。俺は、指定された時間に行くと、美咲はすでにそこにいた。彼女は、以前のような輝きを失い、見る影もなくやつれていた。

「健太…ごめんなさい」

美咲は、俺の顔を見るなり、そう言って頭を下げた。その声は、震えていた。

「ごめんなさい…私が、間違っていた…」

美咲は、嗚咽を漏らしながら、俺に全てを打ち明けた。俺が仕事ばかりで、寂しかったこと。そんな時に、斎藤が優しく声をかけてくれたこと。そして、次第に彼に惹かれていったこと。

「でも、本当は、健太が一番だった。ただ、私、寂しくて…」

美咲の言葉は、言い訳にしか聞こえなかった。俺は、冷めた目で彼女を見つめた。

「俺は、君に全てを捧げていた。君のために、将来のために、必死に働いていたんだ。君は、その俺の気持ちを、簡単に裏切った。そして、俺の人生を、めちゃくちゃにしたんだ」

俺の言葉に、美咲は顔を上げ、絶望に満ちた目で俺を見つめた。彼女の目には、深い後悔の色が浮かんでいた。

「斎藤は…どうなったの?」

美咲は、震える声で尋ねた。

「彼は、婚約者にも捨てられ、会社での立場も危うくなっている。お前と会うことも、もうできないだろう」

俺の言葉に、美咲はさらに顔を歪ませた。彼女は、自分の行動が、いかに多くの人を巻き込み、傷つけたのか、今ようやく理解したようだった。

「私のせいで…」

美咲は、そう呟き、深く項垂れた。その姿は、かつて俺が愛した美咲とは、あまりにもかけ離れていた。

俺は、美咲に復讐を遂げた。彼女が最も大切にしていたものを奪い、心の底から絶望させた。斎藤もまた、因果応報の結果を味わった。俺の復讐は、完璧に達成されたのだ。

しかし、俺の心には、喜びも達成感もなかった。残されたのは、虚しさと、深い傷痕だけだった。美咲への憎しみは、確かに晴れた。だが、その代わりに、俺の心にはぽっかりと穴が空いてしまったようだった。

俺は、美咲と離婚した。財産分与は公正に、一切の未練を残さないように。美咲は、旅館を売却し、実家を離れた。どこに行ったのか、俺は知らないし、知ろうとも思わなかった。

斎藤もまた、会社を辞め、どこかへ姿を消したと聞いた。彼の婚約者だった恵美は、新たな人生を歩み始めたと風の噂で聞いたが、それ以上は知らない。

俺の復讐は終わった。彼らは、俺が与えた絶望と後悔を味わっただろう。しかし、俺自身もまた、その復讐の過程で、大切なものを失った。愛する妻を失い、信頼を失い、そして、何よりも、自分の心を失った。

今、俺の日常は、以前よりも静かで、そして冷たい。仕事は相変わらず忙しいが、家に帰っても、俺を迎える笑顔はない。美咲の存在しない生活は、想像以上に空虚だった。

俺は、あの完璧な日常に、自分自身で気づかぬうちに、小さな綻びを作ってしまった。そして、その綻びから入り込んだ毒が、俺たちの関係を、そして俺の人生を、完全に破壊してしまったのだ。

復讐は、何も解決しない。ただ、新たな傷を生み出すだけだ。俺は、そのことを、身をもって知った。しかし、もう遅い。全ては、終わってしまったのだ。

俺の物語は、ラブコメの皮をかぶった、とてつもないバッドエンドだった。残されたのは、癒えることのない傷痕と、二度と戻らない幸せな日々への、深い後悔だけだ。